歯科医院の広告が効果ない理由|失敗事例から学ぶ集客の正しい順番

「SEOもMEOも広告も試したけど、まったく変化がない…」
「広告を全部止めたが、大きな変化はない。半径1キロ以内に競合が8件もある」

SNSでこうした歯科医師の声を目にすることが増えました。

多額の広告費を投じても成果が出ず、疲弊している歯科医院は少なくありません。

実は私も最近、歯科クリニックから「ホワイトニングの広告を打ちたい」と相談を受けましたが、広告配信をお断りしました。

なぜ、広告を回せば売上が入るのに断ったのか?
この記事では、心理学と行動経済学の視点から、歯科医院の広告が効果ない本当の理由と、成果を出すために必要な「広告前にやるべきこと」を実例をもとに解説します。

なぜ歯科医院の広告は効果が出にくいのか

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コンビニより多い歯科医院の現実

歯科医院はコンビニよりも多いと言われるほど競合過多の業界です。
実際、半径1キロ圏内に8件以上の歯科医院がひしめくエリアも珍しくありません。

このような状況下では、新規患者だけに頼った集客戦略には限界があります。

「選択のパラドックス」が招く意思決定の麻痺

心理学者バリー・シュワルツが提唱した「選択のパラドックス」をご存知でしょうか?

これは、選択肢が多すぎると、人は意思決定を先延ばしにするか、何も選ばなくなるという現象です。

歯科医院が乱立する状況は、まさにこの状態。
患者は「どこも同じに見える」と感じ、結局は「今のかかりつけでいいか」と現状維持バイアスに陥ります。

大手コンサルが推奨する「広告ありき」の危うさ

大規模な歯科医院には有名企業のコンサルタントが入っているケースも多く、「まずは広告で認知を取りましょう」という提案が一般的です。

しかし、広告費を大量に投下するやり方を見て、私は疑問を感じることがあります。

広告は"認知の手段"であって、土台が弱いまま突っ込んでも成果が出ずに溶けていくからです。

実例:ホワイトニング広告を断った理由

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「ホワイトニングを売りたいので広告を回したい」

数週間前、とある歯科クリニックの副院長からこんな相談を受けました。

一見シンプルで分かりやすい依頼です。

正直、「Instagram広告が相性いいですよ」と返せば話は早く、こちらも手数料が入ります。

でも私は、そこに一抹の危うさを感じました。

ヒアリングで見えた「選ばれる理由」の欠如

そこで、まずヒアリングから始めることにしました。

・ホワイトニングを希望する人は、どんな悩みを抱えているのか?

・なぜ、今それを受けたいと思うのか?

・そして、なぜそのクリニックが選ばれるのか?

 

しばらく話を聞くと、状況が見えてきました。

 

「選ばれる理由」が曖昧だったのです。

・サロンと違ってクリニックができる強みは何か?

・どんな悩みに応えられるのか?

・なぜ他院より選んでもらえるのか?

・なぜ患者がホワイトニングを利用するのか?

 

これらが私には伝わりません。

もっと正確に言うと、お客様に伝わる言語化ができていませんでした

ホワイトニングは歯科医院だけでなくサロンでも扱っています。
「じゃあ、なぜおたくでホワイトニングを依頼しないといけないの?」という問いに、答えられる情報が薄かったのです。

歯科医院の広告が効果ない本当の理由

理由①:「プロスペクト理論」が示す損失回避の心理

行動経済学のノーベル賞受賞者ダニエル・カーネマンが提唱した「プロスペクト理論」によれば、人は利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛を2倍強く感じるとされています。

歯科医院選びは、まさにこの心理が強く働く場面です。

「痛い思いをしたくない」

「失敗したくない」

「時間とお金を無駄にしたくない」

このような損失回避の心理が強いサービスでは、「なぜあなたのクリニックなら失敗しないのか」が明確でなければ、患者は行動しません。

広告で認知を広げても、この不安を解消する情報がなければ、患者は競合との比較を始め、結局は「今のままでいいか」と現状維持に戻ってしまうのです。

理由②:「社会的証明の原理」が機能していない

心理学者ロバート・チャルディーニが体系化した「影響力の武器」の中で、最も強力なのが「社会的証明の原理」です。

これは、人は他者の行動を参考にして自分の行動を決めるという心理です。

「この歯科医院は多くの人に選ばれている」「実際に通った人が満足している」

こうした証拠が可視化されていないと、広告を見ても「本当に大丈夫かな?」という疑念が消えません。

・実際の症例(ビフォーアフター)

・お客様の声

・選ばれている理由の具体的なデータ

これらが整備されていない状態で広告を打っても、社会的証明が弱く、説得力に欠けるのです。

理由③:施策の順番を間違えている

SNSで見かけた「全部試したけど変化なし」という歯科医師の声。

その言葉が示していたのは、施策の良し悪しではなく「やる順番を間違えている」ということです。

行動経済学では、「フレーミング効果」という概念があります。同じ情報でも、伝え方(フレーム)次第で意思決定が変わるというものです。

広告を打つ前に、以下が明確に語れるか?

・他院と違って選ばれる理由

・患者の不安を解消する具体的な証拠

・なぜ今、このクリニックを選ぶべきか

ここが整っていないと、どんな施策も空回りします。

理由④:「現状維持バイアス」を打破できていない

そもそも質問ですが、かかりつけの歯医者をコロコロ変えることってありますか?

人間には「現状維持バイアス」という強力な心理的傾向があります。これは、変化によるリスクを避け、現状を維持したがる心理です。

新患を獲得する背景としては以下のようなケースです。

・かかりつけの歯科医院によほど疑問や不安がある

・他院がよほど良い口コミを得ている

・転勤などで新しい地区に住んだ

そう考えると、「広告を配信したから売上が上がる」は、この現状維持バイアスを打破できるほど魅力的な理由がないと危険な考えです。

広告を打つ前に整えるべき3つのポイント

歯科医_広告

では、何から始めればいいのか?
私がクリニックに提案したのは、心理学と行動経済学に基づいた以下の3つです。

①患者の「ジョブ理論」を理解する

ハーバード・ビジネススクール教授のクレイトン・クリステンセンが提唱した「ジョブ理論」では、顧客は商品を買うのではなく、片付けたい"用事(ジョブ)"のために商品を雇うとされています。

ホワイトニングを受ける患者の本当のジョブは何でしょうか?

「恋愛・結婚で自信を持ちたい」

「第一印象を良くして仕事で成功したい」

「コンプレックスから解放されたい」

このジョブを深く理解し、患者自身も気づいていない本質的な欲求を言語化することが重要です。

②「差別化ポイント」を明確化し、損失回避の不安を解消する

プロスペクト理論が示すように、患者は「失敗したくない」という損失回避の心理が強く働きます。

そのため、他院やサロンとの違いを明確にし、「なぜこのクリニックなら安心か」を具体的に伝える必要があります。

・安全性:医療機関だからこその安全基準

・専門性:施術者の資格・経験・実績

・価格透明性:追加料金なしの明瞭会計

これらを明確にすることで、患者の不安を取り除けます。

③「社会的証明」を可視化し、信頼を構築する

チャルディーニの「社会的証明の原理」を活用するため、以下を整備します。

・実際の症例(ビフォーアフター)

・お客様の声(具体的なエピソード付き)

・施術中の様子(透明性の確保)

・ホワイトニングするスタッフの顔と経歴

・お客様はなぜ選んでくれたのか(選択理由の明確化)

・視覚的にわかるデータ(年齢・性別・地域・お悩み比率など)

小さく、着実に「選ばれる理由」を整える作業です。

これは「広告は効果がないから危ない」ではなく、「広告を打てる状態にする」準備運動です。

土台を固めた先の2つの選択肢

足元を固めた後、選択肢は2つに分かれます。

①新規獲得が狙える状態まで整えてから、必要最小限の広告

土台が育った瞬間、広告が効くという考え方です。

心理学の「エラボレーション・ライクリフッド・モデル(精緻化見込みモデル)」によれば、人は関心が高い情報ほど深く処理するとされています。

選ばれる理由が明確になっていれば、広告を見た患者は深く情報を処理し、行動に移しやすくなります。

最小の投資でも、成果に繋がるのはこのためです。

②既存顧客へアプローチし、リピート・紹介で育てる

そもそも新規獲得が難しい市場なら、無理に新規へ打たず、既存患者への価値提供を強化する現実解もあります。

行動経済学の「保有効果」によれば、人は一度手に入れたものに高い価値を感じる傾向があります。

既存患者はすでにあなたのクリニックを「保有」しているため、新規患者を獲得するよりも遥かに低いコストで、リピートや紹介を促進できます。

まとめ:広告は魔法ではない。心理を理解し、順番が成果を分ける

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広告はお金を入れれば露出できますが、売上を100%上げる魔法ではありません

土台がないまま打ち続けても、どこかで燃料切れが来ます。

ですが「選ばれる理由」が育っていれば、最小の投資でも成果に繋がります。

今回の相談で、私はヒアリングから入り、心理学と行動経済学の知見をもとに選ばれる理由を深掘りしつつ、無暗な投資を避ける選択を取りました。

結果が出るまでに少し時間はかかります。
けれど、その過程は決して無駄ではありません。

華やかさはありませんが、ここを抑えるだけで、遠回りに見えて、むしろ近道になります。

実際にそんな場面を、何度も見てきました。

採用、注文住宅、美容商材、自動車関係、toB向けツールなど、高額・失敗したくないサービスを購入する顧客は、プロスペクト理論が示す通り、損失回避の心理が強く働きます。

だからこそ、選ばれている理由を明確にすることが大事です。

また口コミが高いサービスは、社会的証明の原理により、広告を打たなくても自然と集客できるものです。

各サービス・商材の良さを伝える手段が、YouTube/LINE/ブログ記事/SNS/広告などに当たります。

広告を打つ前に、まずは「選ばれる理由」を整える。
この視点を持つだけで、マーケティングの成果は大きく変わります。

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