【CVRが7.2%→13.1%へ】成果が出ない理由は「数字の見すぎ」

Webマーケティングの現場で、多くの担当者が陥る罠があります。

それは「数字さえ追えば、課題は見つかる」という思い込みです。

Google Analytics、広告管理画面、ヒートマップツール。

これらのツールは確かに優秀ですが、決定的に欠けているものがあります。

それは「なぜユーザーが離脱したのか」という"理由"です。

数字は結果を教えてくれますが、原因は教えてくれません。

特に入力フォームの改善において、この問題は顕著に現れます。

CVR(コンバージョン率)を上げたい、申込数を増やしたい。

そう考えたとき、多くのマーケターは「広告の調整」「LPのデザイン変更」「コンテンツの拡充」に目を向けます。

しかし、最も費用対効果が高い改善ポイントは、実は別の場所にあります。

それが「入力フォーム最適化(EFO:Entry Form Optimization)」です。

なぜなら、フォームまで到達したユーザーは、すでに高い購買意欲を持っているからです。

商品を比較し、検討し、情報入力という"最後の一歩"まで進んだユーザー。

この段階で離脱させてしまうことは、最も価値の高い顧客を失うことを意味します。

今回の記事では、私が担当した企業の入力フォーム改善事例をもとに、「なぜ数字だけでは課題が見えないのか」「どんな心理メカニズムが働いているのか」を、マーケティング理論と行動経済学の視点から解説します。

この考え方は、フォームだけでなく、SNS運用、LP設計、動画マーケティングなど、あらゆる顧客接点に応用できる本質的な内容です。

Contents

なぜ入力フォームが「事業の生命線」なのか

Webマーケティングの改善といえば、多くの企業は「入口」に注目します。

広告のクリエイティブ、ランディングページの構成、SEO対策。

これらはもちろん重要ですが、入口ばかりを磨いても、出口が整っていなければ成果は伸びません。

入力フォームは、顧客が「興味」から「行動」へと変わる最後の関門です。

ここでつまずくということは、それまでの広告費、コンテンツ制作費、営業活動のすべてが水の泡になることを意味します。

特に現代の広告単価を考えると、この離脱は経営的に大きな損失です。

入力フォームで離脱するユーザーの特徴

入力フォームまで到達したユーザーは、以下の特徴を持ちます。

  • 商品やサービスに対して強い興味を持っている
  • 競合と比較検討した上で、このサイトを選んでいる
  • 情報入力という"面倒な作業"をしてでも申し込みたいと思っている

つまり、購買意欲が最も高い層です。

この層を逃すことは、マーケティング活動全体の効率を大きく下げることになります。

しかし、多くの企業は「フォーム完了率が低い」という結果は把握していても、「なぜ離脱しているのか」という原因を掴めていません。

ここに、数字だけでは見えない課題が隠れています。

数字が教えてくれないもの:「迷い」「不安」「想定外」

Google Analyticsを開けば、フォームの離脱率は一目瞭然です。

どのステップで何パーセントが離脱したかも分かります。

しかし、それは「結果」であって、「理由」ではありません。

ユーザーが離脱する瞬間、その心の中で何が起きているのか。

それを知るためには、数字の外側を見る必要があります。

私が担当した企業が直面した課題:完了率9.88%という壁

私が担当した企業では、長期にわたって入力フォームの改善に取り組んでいました。

GA4で確認したところ、入力フォーム完了率は9.88%。

業界平均と比べて極端に悪いわけではありませんが、何か引っかかる数字でした。

特に、入力フォーム入口から次のステップへの離脱率が高く、「どこかで迷っている」という感覚がありました。

しかし、どれだけ数字を眺めても、理由が分かりません。

広告管理画面を見ても、ヒートマップを見ても、答えは見つかりませんでした。

数字は「結果」しか教えてくれない。

原因は数字の外側にある。

そう感じた担当者は、分析のアプローチを根本から変えることにしました。

ユーザビリティテストという「定性分析」の威力

そこで私が選んだ方法は、「ユーザビリティテスト」でした。

これは、実際にユーザー(またはユーザーに近い人)にフォームを操作してもらい、その様子を観察する手法です。

マーケティングリサーチにおいて、定性分析の王道とされる方法です。

担当者は、この案件を全く知らない社内メンバーに声をかけ、実際にフォーム入力をしてもらいました。

すると、数字では絶対に見えなかった課題が次々と浮かび上がってきました。

このテストの最大の価値は、「数字では絶対に拾えない"生の反応"が見える」ことにあります。

  • 指が止まる
  • 首を傾げる
  • 画面を数秒間見つめる
  • 入力欄を上下に行ったり来たりする

この「身体の反応」こそが、ユーザーのつまずきそのものです。

数字では「離脱した」という事実しか分かりませんが、観察すれば「なぜ離脱したのか」が見えてきます。

この"なぜ"を理解することが、改善の第一歩となります。

入力フォームで起きている3つの心理的障壁

ユーザビリティテストを通じて、この企業が見落としていた心理的障壁が明らかになりました。

ここでは、特に重要な3つの障壁と、それを解消するための考え方を紹介します。

①エラー表示の不親切さが「認知的負荷」を高める

テストで最初に明らかになったのは、エラー表示の不親切さでした。

入力ミスがあったとき、エラーメッセージは表示されます。

しかし、「どこが間違っているのか」が明確に示されていませんでした。

テストに参加したメンバーは、画面を上下にスクロールし、どこに問題があるのか探し始めました。

そして、首をかしげて、手が完全に止まってしまいました。

この「探す」という行為が、認知的負荷を高めます。

認知心理学において、人間の短期記憶は非常に限られています。

ミラーの法則によれば、人間が一度に処理できる情報は「7±2個」とされています。

入力フォームという作業自体が、すでに認知的負荷を生んでいる状態です。

そこにさらに「エラー箇所を探す」という負荷が加わると、ユーザーの脳はオーバーフローします。

結果として、「もういいや」という離脱につながります。

改善のポイント:認知的負荷を最小化する

この企業では、エラー箇所を視覚的に明示する改善を行いました。

具体的には、エラーがある入力欄を赤枠で囲み、エラーメッセージをすぐ下に表示する設計に変更しました。

これは「認知的負荷の最小化」というUXデザインの基本原則に基づく改善です。

ユーザーは迷わなければ前に進みます。

逆に言えば、迷わせた瞬間に離脱のリスクが急上昇します。

②「選択肢の提示」が離脱を生む:選択回避の法則

予想外だったのが、この課題でした。

このフォームには、「クーポンをお持ちの方はこちら」という文言がありました。

一見、親切な案内に見えます。

しかし、ユーザビリティテストでは、この文言が表示された瞬間に「手が止まる」様子が何度も観察されました。

テストに参加したメンバーの表情を見ていると、こんな思考が働いているのが分かりました。

「クーポン…あるのかな?」

「探してみようかな」

そして実際に、別タブでクーポンを検索し始めました。

その後、フォームには戻ってきませんでした。

これは「選択回避の法則(Choice Overload)」と呼ばれる現象です。

行動経済学者のバリー・シュワルツは、著書『選択の科学』の中で、選択肢が多すぎると人は決断を先延ばしにすることを明らかにしました。

フォームにおいて、「クーポンの有無」という選択肢を提示した瞬間、ユーザーの脳は「今すぐ決めなくてもいいかも」と判断します。

そして、その判断が離脱につながります。

改善のポイント:余計な選択肢を与えない

この企業の場合は、クライアントと協議の上、クーポン案内をアコーディオン形式に変更しました。

フォームの本質は、「ユーザーに決断させる」ことではなく、「ユーザーをゴールまで導く」ことです。

これにより、ユーザーは「選択」ではなく「行動」に集中できるようになりました。

マーケティングにおいて、選択肢を減らすことは、必ずしもユーザー体験を損なうことではありません。

むしろ、迷いを減らし、ゴールへの道筋を明確にする行為です。

③「想定外の要求」が心理的コストを跳ね上げる

最も大きな課題は、本人確認書類の扱いでした。

このフォームでは、入力を進めていく途中で突然「本人確認書類のアップロード」を求める設計になっていました。

テストでは、この瞬間にユーザーの表情が明らかに変わりました。

「え、本人確認が必要なの…?」

「家にあるかな」

「あとでにしよう」

そして、そのままフォームを閉じてしまいました。

これは「心理的コストの急上昇」が原因です。

行動経済学において、人は「損失回避性」を持つとされています。

カーネマンとトヴェルスキーのプロスペクト理論によれば、人は利益を得る喜びよりも、損失を被る痛みを強く感じます。

フォーム入力という「面倒な作業」は、すでに一種の心理的コストです。

その途中で「本人確認書類」という予期せぬコストが追加されると、ユーザーの脳は「損失が増えた」と判断します。

そして、「今じゃなくてもいいか」という回避行動につながります。

改善のポイント:予告することで心理的ハードルを下げる

この企業では、フォームの最上部に本人確認書類の見本画像を配置しました。

同時に、「先に準備しておくとスムーズです」という案内文を追加しました。

これにより、ユーザーは「心の準備」ができるようになりました。

心理学における「予告効果(Priming Effect)」です。

事前に情報を与えることで、後の行動がスムーズになる現象です。

フォームは「途中の想定外」に弱いのです。

だからこそ、最初にすべての情報を開示し、ユーザーが納得した上で進める設計が重要です。

改善の結果:9.88%から15.28%へ

これらの改善を実施した結果、入力フォーム完了率は劇的に変化しました。

・改善前:9.88%

・改善後:15.28%

約5.4ポイントの改善です。

「たった5.4ポイント?」と感じる方もいるかもしれません。

しかし、この数字が持つ意味は非常に大きいのです。

例えば、月間1,000人がフォームに到達している場合を考えてみましょう。

改善前は約99人が完了していました。

改善後は約153人が完了します。

つまり、月間54人の申込が増えることになります。

年間にすると648人です。

これは、集客に一切お金をかけることなく、既存のトラフィックから得られる成果です。

広告費を増やすことなく、売上が大きく伸びる。

これが、EFO(入力フォーム最適化)の真の価値です。

派手な施策は一つもない

この改善で行ったことを振り返ると、派手な施策は一つもありません。

  • エラー箇所を赤枠で囲む
  • クーポン案内をアコーディオンにする
  • 本人確認書類の予告を入れる

どれもシンプルな変更です。

しかし、その根底にあるのは「人の心理」への深い理解です。

  • 迷わない
  • 探さない
  • 想定外がない

この3つの積み重ねだけで、大きな成果につながりました。

入力フォーム改善に潜む「人間心理」の本質

ここまで見てきた3つの改善ポイントには、共通する本質があります。

それは「人は迷うと離脱する」という事実です。

マーケティングの世界では、よく「行動を促す」という言葉が使われます。

しかし、本当に重要なのは「行動を妨げる要素を取り除く」ことです。

フォーム改善は「足し算」ではなく「引き算」

多くの企業が誤解しているのは、「何を追加すれば良くなるか」という発想です。

しかし、優れたフォームは「何を削ったか」で決まります。

  • 迷いを削る
  • 選択肢を削る
  • 想定外を削る

この「引き算の設計」が、ユーザー体験を最適化します。

行動経済学では、これを「ナッジ理論」として体系化しています。

ナッジとは、強制ではなく、環境を整えることで望ましい行動を促す手法です。

フォーム改善もまさにナッジの一種です。

ユーザーに「入力しろ」と命令するのではなく、「入力しやすい環境」を整える。

これがEFOの本質です。

数字の裏にある「感情」を読む技術

Google Analyticsは優れたツールです。

しかし、数字だけを追っていると、最も重要な情報を見落とします。

それは「ユーザーの感情」です。

ユーザビリティテストが教えてくれるのは、まさにこの感情の動きです。

  • どこで迷ったか
  • どこで不安になったか
  • どこでテンションが下がったか

この「感情の起伏」を捉えることが、真の改善につながります。

マーケティングは、データサイエンスであると同時に、人間科学でもあります。

数字と感情、両方を読み解く力が求められる時代です。

この考え方はあらゆるマーケティング施策に応用できる

入力フォーム改善で学んだ原則は、他の領域にも応用できます。

SNSマーケティングにおける応用

SNSで投稿を作るとき、「どれだけ情報を詰め込むか」ではなく、「どれだけ迷いを減らすか」が重要です。

CTAが複数あると、ユーザーは選択を回避します。

シンプルに「次に取るべき行動」を一つだけ提示する。

これがエンゲージメントを高める秘訣です。

LP設計における応用

ランディングページも同様です。

情報量が多いほど良いわけではありません。

ユーザーが「どこを見れば良いか分からない」状態は、認知的負荷を高めます。

視線誘導を意識し、スクロールの流れをデザインする。

これにより、ユーザーは迷わずCVポイントまで到達できます。

動画マーケティングにおける応用

動画コンテンツでも、「予告」が重要です。

冒頭で「この動画で得られること」を明示することで、視聴者は最後まで見る心理的準備ができます。

これは入力フォームで「本人確認書類が必要です」と予告する構造と同じです。

視聴者に「想定外」を与えないことが、離脱率を下げる鍵となります。

メールマーケティングにおける応用

メールの件名に選択肢を詰め込むと、開封率が下がります。

「AとBとCのどれかに興味があれば開いてください」ではなく、「Aに興味がある方へ」と絞る。

これが選択回避の法則を避ける方法です。

受信者は「自分に関係ある」と明確に判断でき、行動に移しやすくなります。

マーケティングの本質は「伝えること」ではなく「理解される設計」

多くのマーケターが「どう伝えるか」に注力します。

しかし、本当に重要なのは「どう理解されるか」です。

ユーザーは、情報を受け取るだけの存在ではありません。

情報を解釈し、感情を動かし、行動を決める主体です。

その主体が「迷わず、不安を感じず、想定外に驚かない」状態を作ることが、マーケティングの本質です。

「小さなストレス」を消す仕事

入力フォーム改善は、派手な施策ではありません。

デザインを大きく変えるわけでも、新しい機能を追加するわけでもありません。

ただ、「小さなストレス」を一つずつ消していくだけです。

しかし、その積み重ねが大きな成果を生みます。

先ほどの事例では、完了率が9.88%から15.28%に改善しました。

これは決して偶然ではなく、ユーザー心理を丁寧に理解した結果です。

マーケティングにおいて、派手な施策だけが正解ではありません。

地味でも、ユーザーの心に寄り添った改善こそが、持続的な成果を生みます。

数字と人間心理の両輪で考える

Google Analyticsは結果を教えてくれます。

ユーザビリティテストは原因を教えてくれます。

この両輪があって初めて、真の改善が可能になります。

数字だけを追えば、表面的な改善に終わります。

人間心理だけを追えば、感覚論に陥ります。

両方を組み合わせることで、再現性のある成果が生まれます。

明日からできる3つのアクション

この記事で紹介した考え方を、実務に落とし込むための具体的なステップを示します。

アクション1:誰か1人にフォームを触ってもらう

社内の別部署のメンバーでも、友人でも構いません。

「このフォーム、触ってみて」と頼むだけで良いのです。

その様子を横で観察してください。

指が止まる瞬間、首を傾げる瞬間を見逃さないでください。

それが最大の改善ヒントです。

アクション2:「選択肢」を1つ減らす

フォームやLPに、複数のCTAや選択肢が並んでいないか確認してください。

「あれもこれも」は、ユーザーを迷わせます。

まずは1つだけに絞りましょう。

それだけで、行動率は変わります。

アクション3:「想定外」を予告する

ユーザーが途中で驚く要素はないか点検してください。

料金、必要書類、所要時間など、事前に伝えるべき情報を最初に開示しましょう。

予告することで、ユーザーは心の準備ができます。

これが離脱を防ぐ最もシンプルな方法です。

マーケティングは、数字を追う仕事ではありません。

数字の裏にある「人の心」を理解する仕事です。

入力フォーム改善という一見地味な施策にも、深い心理学と行動経済学の原理が潜んでいます。

その原理を理解し、実務に応用することで、あらゆるマーケティング施策の精度が上がります。

「伝える」のではなく、「理解される設計」を目指す。

その先に、持続的な成果があります。

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